幕間

それは白昼でした。私はタウンプラザかねひで大北店の鮮魚コーナーで父と別れた後すぐ、河童を見つけました。ええ、日本三大妖怪の一つ、河童です。河童は気色悪い色をした長い舌で長崎産の牡蠣の殻を舐めており、私は父を呼ぼうとしたのですが声が出ませんでした。河童が私にメンチを切っていたからです。メンチは言います「俺の名はコレーだ。河童に似ているし全裸だが、冥界の女王だ。殺すぞ」私はこんな天井の低いスーパーマーケット内で殺されるのは嫌だと感じ、遠くなっていた父の背中に目で訴えかけたものの、父の背中は動かない。動かない?メンチは言います「あの男が動かない?否。俺が時空を制御しているのだ。それよりお前はまだ俺の事を河童だと思っているだろう。俺は気にしいだ」確かに、その時も私は冥界の女王を名乗る河童の事を完全にただの河童だと思っていました。しかし河童を見たのは生まれて初めてにも関わらず私は彼女を河童だと確信している。冥界の女王が果たしてスーパーで牡蠣の殻を舐めるだろうか?私は聞きました「牡蠣の商品価値が落ちている。お前はそれを買い取るのか」河童は言う「結婚してください」私は言う「精肉コーナーで一番高い肉を買ってくれたなら一考しよう」私と河童は精肉コーナーへ向かいました。眩しい、きらびやかな照明に煌々と照らされた種々の肉たちに興奮しました。ただ河童は全裸で、財布も何も持っていないように見える。「やばい。金どころか持ち物が何もなかった」「皿の下、何か挟まってない?」私は皿の下から突き出ていた白い紙のようなものを引き抜き、突き付けました。「これはレシートですわ。仏子のバーミヤンで40歳の未亡人と食事をしました。反省してます」河童はいつのまにやら敬語になっていました。私はイラッして「早く肉を探せ。一番高い肉だ」と視線で刺します。「私にメンチを切ったのは貴方が始めてです」
そんな出会いから三年、私たちが設けた息子ザグレウスは立派な河童のハーフとしてすくすくと育ち、受け継いだ冥界の血をいかんなく発揮し沖縄角力の名護市代表として琉球バトルロイヤル最強戦へと挑むことになります。決戦前夜、ザグレウスは行きずりのでんきポケモンの女性と関係を設けました。でんきポケモンとのセックスは記憶を失くしそうなほどアンペアに溢れ、チェックアウトのエレベーターでキスをするのもためらわれる位ザグレウスの頭は真っ白に焦げていました。そういった生温い体調の朝にバトルロイアルです。試合会場は国頭郡の瀬底ビーチ、交通費は各自選手の負担です。ザグレウスは河童のハーフでしたが私がきちんとセットアップを着せており金も過不足なく持たせておりました。ただ、対戦相手たちは特にそうではありませんでした。誰一人として来ない、白昼の鮮明な青のビーチに佇むザグレウスを見、可哀想に思った主催者のおじさんはザグレウスに進言します「僕が君と戦おうか」「いえ、私は平気です。不戦勝ですよね。この孤独に勝てた事を一生の誇りとします」「素晴らしい精神だ。キュウリをあげようね」「河童だと思ってませんか」「多少緑色だったから」「私は、ザグレウスです」
私は後日その話をザグレウスから直接聞き、涙を流しました。同席していた私の姉も泣いていました。ザグレウスはポケットティッシュを取り出し、私たちに一枚ずつ渡します。ティッシュペーパーには荒々しく空を舞う龍のイラストがプリントされていました。「特殊なティッシュだ。高いのでは?」「いえ、パチモンなんで」「どこの?」